新・身近な科学

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浴槽の渦はどっち向き?

※本記事はアドベントカレンダー「明日話したくなる科学豆知識4」(http://www.adventar.org/calendars/1675)の一環として書いています。

こんにちは!NSIの伊阪です。

今日は「渦」のお話です。
渦はいろいろなところに現れます。

例えば、大きなものでは台風。夏には、台風が大きく渦を巻く様子をテレビなどで見る機会も多くあります。ご存知の方も多いかと思いますが、台風の渦は反時計回りです。それには地球の自転が大きく関係しています。地球が自転している影響で、台風の中心に向かう空気の流れにはコリオリ力という力がはたらきます。コリオリ力は空気の進行方向に対して横向きにはたらくため、流れの向きが徐々にそれてしまい、大きな渦になるのです。台風だけでなく、低気圧に吹き込む風にもコリオリ力がはたらくため、北半球では台風・低気圧ともすべて反時計回りの渦巻きになります。南半球の場合は、コリオリ力の向きが反対であるため、低気圧は時計回りの渦を作ります。

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今日は、それよりももっと小さな、そしてもっと身近な渦のお話です。
タイトルにあるように、風呂の浴槽に溜まった水を抜くときにも、流れ出ていく水が渦を作ります。その小さな渦が今日のテーマです。

さて、ここで問題です。

浴槽の水を抜くときにできる渦は、時計回りと反時計回り、どちらでしょうか?

台風の渦と同じく、北半球では反時計回りでしょうか?


いえいえ、実は正解は、「両方」

時計回りになることもありますし、反時計回りになることもあります。
浴槽にできるような小さな渦の場合、コリオリ力の影響は大きくありません。排水口に向かって流れる水は、流れる距離が非常に短いため、コリオリ力の影響をほとんど受けずに排水口に流れていきます。

では、なぜ時計回りと反時計回りのどちらの渦もできるのでしょうか?

それは、もともと浴槽の中に流れがあったり、排水溝の場所のせいであったりすることが原因だと考えられます。水は透明なのでよく見えないのですが、何らかのきっかかけで浴槽の中の水にも弱い流れができていることがよくあります。それが原因となって、排水溝のところで渦が生まれるのだと考えられます。このように渦の大きさが非常に小さいため、地球の自転の影響よりも中の水の流れなどの影響の方が圧倒的に大きく、渦の向きはコリオリ力とは無関係になってしまいます。

というわけで、今日の「明日話したくなる科学豆知識」は
浴槽の小さな渦には地球の自転は無関係!
です。

明日もお楽しみに!

「ヘリコプター」を分けるなら

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こんにちは。NSIの しろがねです。

とつぜんですが、みなさん
「ヘリコプター」という単語を、ふたつに区切るとき、どこで切りますか?

おそらく多くの人は「ヘリ」「コプター」に分けたのではないでしょうか?

ヘリコプターを略すときは大抵「ヘリ」と言いますし(ヘリポートとか、ドクターヘリとか)
ドラえもんの代表的アイテムが「タケコプター」ですし
無意識のうちに「ヘリコプター=ヘリ+コプター」と考えていませんか?

実は、語源を踏まえて分けると「ヘリコ+プター」となるのです
これはギリシャ語で、「ヘリコ」は螺旋を表すhelix、「プター」は翼を表すpteronから取られています。
つまりヘリコプターは、「螺旋の翼」という意味なのです
螺旋のように回る回転翼が特徴ですから、それがよく表された名前ですね。

耳慣れなくてなんだかむず痒いですね。
しかし、この「ヘリコ」や「プター」という言葉は、生き物の名前にも使われているのです。
これを知った上でヘリコプターという言葉を見ると、納得できると思います。

「ヘリコ」が名前につく生き物には、たとえば、胃炎や胃潰瘍の原因として有名な「ヘリコバクター・ピロリ菌」があります。ヘリコバクターは「螺旋の桿菌」という意味で、顕微鏡で見ると螺旋状にねじれています。
ほかにも、「ヘリコプリオン」という魚が、古代の地球に生息していました。プリオンギリシャ語でノコギリの意味ですので、ヘリコプリオンは「螺旋のノコギリ」となります。
螺旋状に渦巻いたノコギリをもつ魚…非常にインパクトのある姿です。ぜひ調べてみてください。

では「プター」のつく生き物は、というと、真っ先に浮かぶのはプテラノドンです。
プターとは読みません…が、つづりがpteranodonなので、ちゃんとふくまれています。
この名前を正確に分けると「pter+an+odon」となります。「翼があり、歯がないもの」という意味です。
翼を持った古生物には、pterのつく名前を持つものがいろいろとあります。

このように、「ヘリコ」「プター」それぞれの意味を知っていれば、「ヘリコプターをどこで分けるか」と考えたときに、イメージがつかみやすいのではないでしょうか?

ということで、今日の「明日話したくなる科学豆知識」は
「語源から考えると、ヘリコプターはヘリコ+プターである」でした!

科学じゃない?いえいえ、ちゃんと生物学方面から解説を…(と言い張る

対数の不思議

※本記事はアドベントカレンダー「明日話したくなる科学豆知識4」(http://www.adventar.org/calendars/1675)の一環として書いています。

こんにちは!NSIの岩山です。

みなさん「対数」のことはご存知かと思います。高校の数学で習う、「log ○」で表される数のことですよね。
log 2 = 0.3010 、 log 3 = 0.4771 、 log 6 = 0.7781 みたいな値です。

この対数の性質として一番有名なのは、「かけ算を足し算に、わり算を引き算にする」というものでしょうか。
数式で書くと、
log AB = log A + log B
log (A/B) = log A - log B
というものです。

かけ算・わり算が足し算・引き算になるということで、うまく使うととっても便利なのですが、対数はなぜそんな都合の良い性質を持っているのでしょうか?

実は、この問いに対する答えはけっこう単純です。
その答えは、そうなるように人工的に作られた数だからです。

対数は、16世紀にスコットランドの数学者ジョン・ネイピアによって作られました。

当時はいわゆる大航海時代で、また天文学が大きく発展した時代でもありました。
航海中の自船の位置の計算や星の運行の計算など、膨大な桁数のかけ算やわり算をする必要があり、そのための「計算師」という職業もあったほど大きな負担となっていました。
対数によって計算が楽になり負担が軽くなったことから、「対数天文学者の寿命を2倍にした」と言われるほどだったそうです。

というわけで、今日の「明日話したくなる科学豆知識」は、
対数はかけ算・わり算を簡単にするために人工的に作られた
です。

犬と猫の違い

こんばんは、NSIの猫男爵です。
実は最近、実家が犬を飼い始めました。我が家は昔から猫を飼っていましたので、猫については私も詳しいのです。しかし犬を飼った経験はなく、今回初めて犬と間近に接することとなりました。
 さて、そんな猫熟練者かつ犬初心者の私が犬と生活すると、日々色々な発見があります。今回はそんな一幕から明日話したくなる豆知識を紹介しましょう!

 それはある寒い日の夜のことでした。私が帰宅したとき、愛犬が駆け寄ってくるではありませんか。そこで挨拶代わりに愛犬を抱き上げることにしました。そこで、あることに気が付いたのです。それは「犬を抱き上げても、しがみ付こうとしない」ということ。猫の場合、抱き上げると落ちないように肩や首のあたりにしがみ付こうとする動きが見られます。それはもう、爪を突き立てて「意地でも降りんぞ!」と言わんばかりに掴まることもあるほどです。しかし、犬にはその動きが見られない。よもや嫌われているのかと不安に駆られながら調べてみたところ、面白い事実を知りました。犬はそもそも抱き着くような動きが体の構造的に難しいのです! (よかった、嫌われていたわけではないようです…。)

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 しがみ付くためには「腕を内側に回す」という動きが必要になります。この動きを実現するためには肩回りに筋肉が複雑に組み合わさっている必要があります。そのためには筋肉の接続先として「鎖骨」が不可欠なのですが、実は犬には鎖骨がありません。そのため、犬は何かにしがみ付くような動きが苦手なのです。では、猫には鎖骨があるのか? 実はあります。とても小さく、人間のように骨同士が組み合わさって固定されているわけでもないので見つかりにくいのです。

ということで、今日の豆知識は「実は犬は抱き着く動作が苦手」でした。

世界に一つだけのビスマス

※本記事はアドベントカレンダー「明日話したくなる科学豆知識4」(http://www.adventar.org/calendars/1675)の一環として書いています。


こんにちは、NSIの辻です。

みなさんは「ビスマス」という金属を知っていますか?
高校の化学で扱われないため、あまり一般には知られていないかわいそうな金属ですが、実はとても魅力的な金属なのです。


ビスマスの結晶をお見せしましょう。きっと気に入ってくれるはずです。

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いかがでしょうか。思いの外インパクトがあったのではないでしょうか。


ビスマスの結晶は2つの際立った特徴を持っています。
1. きれいな虹色をしている
2. 独特な形状をしている

なぜこのような見た目をしているのでしょう。今日は1つ目に挙げた特徴「きれいな虹色をしている」について、その理由を考えていきましょう。


ビスマス結晶なぜきれいな虹色をしているのか

ビスマスの表面は、虹色のグラデーションをしています。モノによってもそのようすは異なります。

ビスマス結晶の表面の虹色を作るのは、ビスマスの素材の「地」の色ではありません。「薄膜干渉」と呼ばれる現象によるものです。

高校の物理学で「シャボン玉の薄い膜の干渉」について習ったのを覚えているでしょうか。膜の表面で反射した光と膜の内側の境界で反射した光との間に「厚み分の光路差」が生じて、両者の位相差によって強めあったり弱めあったりする現象です。膜の厚さによって、強めあう光の波長が変わり、強め合った光が我々の眼に届いているわけです。シャボン玉の色がころころ変わって見えるのは、膜の厚さが時間変化するためです。

ビスマスにおいても同様のことがおきています。ビスマス単結晶の周りに、酸化ビスマスの薄い膜がついています。この膜によって、シャボン玉同様に薄膜干渉が起こり、膜の厚さによって色が変化するのです。

ところで「シャボン玉と同じ薄膜干渉である」と言われると、その色のつき方の違いが気になりますよね。シャボン玉はぼんやりと色が見えるだけですが、ビスマスの結晶ははっきりと色がついて見えます。この違いは「金属光沢」によるものです。金属に侵入する光は表面にある自由電子によって全反射されるため、金属は非常に高い反射率(ほぼ100パーセント)を持ちます(これを金属光沢と呼びます)。金属光沢によって、きらきら輝いて見えるわけです。

まとめると、ビスマスがきれいな虹色をしているのは、
・酸化膜による薄膜干渉があって厚さによって強め合う色が変化する(虹色に見える)
・金属光沢がある(きらきら光って見える)
ということだったわけですね。

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こちらがお気に入りのマイ・ビスマス

おわりに

今回紹介したビスマスの結晶は、実は簡単につくることができるそうです。ビスマスの融点は 272 度と低く、家庭用のコンロでも溶かすことができるとのこと。興味を持った方はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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膜の厚さはビスマス結晶が冷やされて固まるスピードによって変わるようで、色のつき方は結晶によってばらばらです。まったく同じ色のつき方にはならないのです。まさに世界に一つだけのビスマスですね。

というわけで、今日の「明日話したくなる科学豆知識」は、

ビスマスがきれいな虹色をしているのは、薄膜干渉と金属光沢が原因である」
でした。

ビスマス結晶の独特な形状のなぞについては、またの機会に触れたいと思います。それでは。