ビスマス結晶の独特な形状について
※本記事はアドベントカレンダー「明日話したくなる科学豆知識4」(http://www.adventar.org/calendars/1675)の一環として書いています。
こんばんは。
12/6 に「世界に一つだけのビスマス」というタイトルでお話しした辻です。
nsi.hateblo.jp
前回は「ビスマス結晶の持つ構造色」についてのお話をしましたが、今日はビスマス結晶の「形」についてお話したいと思います。
ビスマス結晶の骸晶(がいしょう)
ビスマスの結晶って、色もそうですけど、形もなかなかに独特ですよね。
人工的にこのような形を細工したのではなく、液体のビスマスが冷やされて結晶として生成される過程で、自然にそのような形になるのです。
ビスマス結晶の独特な形状は、骸晶(がいしょう) と呼ばれる性質によってある程度説明できます。骸骨の「骸」に結晶の「晶」。英語だと "Hopper Crystal" と呼ばれます。
形を観察すると、段々と階段状になっているのがわかります。まるでピラミッドを内側に向けて掘り進めていったような、人工物のような形状をしています。
言葉では伝えづらいので絵でみるとわかりやすいかもしれません。以下のページの "Sketch of Cubic Hopper Crystal" というタイトルがついた画像をみてください。
こんな感じです。
とても自然に作られたとは思えない形状ですね。
でも実は、このような形状を自然に作る仕組みが備わっているのです。
骸晶を作る仕組み
ビスマスの結晶には成長の方向があります。角の部分(これを「稜(りょう)」と呼びます)の方が、平らな部分(これを「面」と呼びます)よりも成長しやすいのです。
結晶の成長には核となる部分が必要です。核ができるとそこに粒子がくっついて成長していきます。このとき、くっつきやすい方向があるそうなのです。
条件にもよるそうなのですが、面の部分と比べて稜の部分の方が粒子がくっつきやすいのです。稜の部分の成長に、面の部分の成長が追いつかず、面の部分が取り残されてしまってカクカクした尖った構造になるのですね。
以上の過程を経て、骸骨のような骨だけの中身がない構造ができあがります。この様子から「骸晶」と呼んでいるわけです。
以上の仕組みを勉強しようと、"Hopper Crystal" で調べてみると、以下のウェブサイトを見つけました。
骸晶のしくみは、純粋にミクロな粒子の相互作用の組み合わせによって生じるものなので、その過程をモデル化することでコンピュータシミュレーションによって再現できるようなのです。
demonstrations.wolfram.com
シミュレーションの結果をみてみると、たしかにビスマスの形状に見えてきますね。
粒子レベルのミクロな性質が、私たちの目にもわかるマクロな構造に影響を及ぼすというのは、とても興味深い現象ですよね!
ビスマス結晶の形状は、骸晶だけで説明できる?
階段のように段々と角をつくる「骸晶」の仕組みは、以上の理論でたしかに説明できます。しかし、ビスマスの形状のようすはこれだけで説明できるのでしょうか?
ラーメンマークのような、はたまた迷路のような。カクカクと「螺旋状に」巻きついていく構造については、十分には説明できないように思います。
残念ながら私はこのような構造になる仕組みを知りません。可能であれば、上に紹介したようなコンピュータシミュレーションによって、ビスマス結晶そっくりの形状が自動生成できたら楽しそうだなと思っています。
私は結晶構造や物性に詳しい方に合うたびにこの話を尋ねていますが、未だに詳しい人に出会っていません。もしかすると未解決なのかもしれないですし、解決しているのかもしれません。
もしご存知の方がいたらぜひ教えてください。