「重」にこめられた思い
※本記事はアドベントカレンダー「明日話したくなる科学豆知識4」(http://www.adventar.org/calendars/1675)の一環として書いています。
こんにちは。NSIの岩山です。
12月11日のエントリにて、イソップが「ナトリウムについての豆知識11連発」という内容を書いています。
われわれNSIがちょうど11周年を迎えたということで、「11」にまつわる豆知識です。
今日はそれに便乗して、イソップの話の中にも出てきた「重曹」のお話をしようと思います。
重曹は、お掃除に便利なものとして、すっかり一般的になった感があります。
ちょうどこの時期、大掃除で活躍しているご家庭も多いのではと思います。
この「重曹」という名前、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)の別名で、ちゃんと学術的な文脈でも使える呼称です。
こんな風に、化学物質名がそのまま一般的に用いられている例は意外と珍しいんじゃないかと思います。
それは生活に役立つ点もさることながら、「重曹」という響きが化学物質名っぽくないということも大いに影響しているんじゃないかと思います。
化学物質名っぽくないこの名前にはどういう由来があるのでしょう?
重曹のうち「曹」は、イソップも言っていたとおり、「曹達(ソーダ)」の略です。
残る「重」ですが、グーグル先生に聞いてみると2つの説が出てきます。
結論から言うとどっちが正しいのかは判然としなかったので、今回は両方を紹介したいと思います。
1つ目の説は「炭酸水素ナトリウムの英語名 Sodium Bicarbonateの『Bi』を『重』と訳したもの」、というものです。
「Bi」はBicycle(自転車、二輪車)みたいな単語で使われているように、「二つ、二重」といった意味です。
この説の場合、「重」は「かさなる」という意味ですね。
そしてもう1つとして、「炭酸ナトリウム(Na2CO3)より密度が高く、重いからだ」という説があります。
どっちかというとこちらの方が言及は多いような気がします。
豆知識としても「へぇ」がたくさんもらえそうですよね。
ふむふむなるほどと思いつつ、しっかりエビデンスにあたろうということで、試薬メーカーのMerckのサイトで確認してみます。
炭酸ナトリウムは無水物・一水和物・十水和物の3種類があるのですが、放置しておくと無水物は吸湿して、十水和物は風解してそれぞれ一水和物になるらしいので代表で一水和物の値を調べます。
www.merckmillipore.comwww.merckmillipore.com
上記ページによると、
炭酸ナトリウム一水和物の密度
2.25g/cm3
炭酸水素ナトリウムの密度
2.22g/cm3
なんとなんと、炭酸水素ナトリウムの方が軽いことが分かります。
この説はガセだったのか・・・と思いつつもう少し物性を見ていると、なにやら「かさ密度」という項目があります。
密度は物質をぎゅうぎゅうに押し固めた状態の体積あたりの重さであるのに対して、かさ密度は粉末のまま重さを量るものです。
これで比較すると・・・
炭酸ナトリウム一水和物のかさ密度
820kg/m3
炭酸水素ナトリウムのかさ密度
1000g/m3
うん、炭酸水素ナトリウムの方が重い、という結果となりました。
こっちの説はなんだかすっきりしませんが、
「重曹」は、「かさ密度が大きく、重い方の曹達」
といえそうです。
というわけで、今日の「明日話したくなる科学豆知識」は、
「重曹」の名前の由来は、「炭酸水素ナトリウムの英語名 Sodium Bicarbonateの『Bi』を『重』と訳したことから」または、「かさ密度が大きく、重い方の曹達という意味から」
としたいと思います。